粟谷能の会
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5月10日の広島護国神社の広島薪能で『田村』を勤めます。この曲は坂上田村麻呂の霊が京都清水寺の花の木かげに現れ、旅僧に寺の縁起を語り、更に御本尊、千手観世音の仏力によって鈴鹿山の賊徒を討滅した戦況を語る話です。
千手観音で思い出すのは、私の大好きな写真家、土門拳(どもんけん)の千手観音の写真です山形県酒田市には土門拳記念館があり、私は酒田の稽古のついでによく遊びに行きました。初めて記念館を訪れた時にまず目に入ってきたのが千手観音の写真でそのアングルのすばらしさに魅了されました。その写真からは仏師の志や力が溢れ、手の一本一本からは衆生への慈悲や悪魔降伏のエネルギーが感じられます。またあの無数の手のうごめきが、まるで生き物のようにこちらに迫ってくるようにも、また何かからやみくもに逃れようとしているようにも見えて衝撃的です。実物を見るより仏師の丹精込めた仕事ぶりがはっきりと判り感心させられてしまうのです。製作者仏師の千手観音というパワフルな作品を、撮影者土門拳の眼力を通して写真が撮られる、そしてそれを見て感動する人がいる。普段なら見落としてしまうような所を優れた写真は教えてくれるのです。

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この二重三重の現象、図式はあたかも能『井筒』の世界に似ています。男性の能楽師が女性の紀有常の娘の役になる、その娘は男装して在原業平と変化して、遠い昔振り分け髪の頃を思い浮かべる。土門拳記念館には彼のメッセージが書かれています。私のお気に入りなので、ここに紹介します。

「実物がそこにあるから、実物を何度も見ているから写真はいらないと言われる写真では情けない。実物がそこにあっても実物を何度見ても実物以上に実物であり何度見た以上に見せてくれる写真が本当の写真というもの。レンズは肉眼を超える。」 土門 拳

写真 古寺を訪ねて 土門拳 小学館文庫より
唐招提寺金堂 千手観音立像右脇 左脇
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