シテがワキに呼び掛けながら登場する曲があることにお気付きでしょうか。
ワキが本舞台で謡っている間に幕が上がり、シテが幕内から「なう、なう…」とワキに呼び掛けながら登場します。これを呼掛(よびかけ)と言います。
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短い台詞ではありますが、舞台の印象を決めてしまう重要な謡いですので、私達演者は気持ちを込めて大事に謡います。

呼掛とは、文字通り、物理的に離れている人へ呼び掛ける謡で、「なう」あるいは「なう、なう」という台詞で始まります。囃子のアシライは無く、シテとワキの謡だけで構成されます。父からは「なう」の前に必ず「ん」を付けて、「んーなう」と謡うようにと教えられました。「ん」を付けることで、遠くから呼んでいるような距離感を演出することができるからです。また、一字、一字の間を持たせるように、たっぷり謡うことも秘訣かと思います。

呼掛には「なう」と「なうなう」という二種類があります。喜多流の呼掛は反復の「なうなう」が殆どで、具体的には次の15曲で謡われています(他流とは異なる場合もありますので、その点はご了承ください)。

『鱗形』『烏頭』『江口』『杜若』『葛城』『熊坂』『殺生石』『定家』『東北』
『二人静』『巻絹』『六浦』『山姥』『遊行柳』『頼政』

意外なことに、一度しか謡わないのは『羽衣』と『女郎花』の2曲だけでした。

「なうなう」が「もーし、もーし」に相当すれば、「なう」は「ちょっと待って!」に近いものでしょうか。『羽衣』では「ちょっと、私の衣を触らないで下さい!」と強い調子ながら慌てたような狼狽ぶりが表れていますし、『女郎花』では「その花を折ってはいけない!」と注意を促しており、頑固で偏屈な尉の有様が伺えるように思えます。

『雲林院』の呼掛はちょっと異色です。これは幕内より、「誰そやう、花折るは…(誰だ!花を折っているのは)」とワキを見ずに歩みを進めて謡います。『女郎花』でもこの演出を行う場合がありますから、厳密に言うと、喜多流で一度だけ呼び掛けるのは『羽衣』だけだということになります。

特異な例をもうひとつ。
通常、呼掛には節がありませんが、『源氏供養』だけは節を付けて「なう、法印に申すべき事の侯」と謡います。この曲にだけ節が付くのは不思議ですが、節が付くために呼掛とは見なさないようです。

次回から呼掛にも注意してみてください。はるか遠くから呼び掛けているように聞こえてくれば、すぐにその舞台の世界に吸い込まれて行くはずです。

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