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鏡の間は揚幕の内側にあり、演者が出を待つ場所です。名前の通り、大きな鏡が取り付けられており、装束をつけ終わったシテ方のシテのみが鏡の前で葛桶(かずらおけ=椅子のようなもの、床几ともいいます)に座れます。年配でキャリアの長い方でもツレ役では葛桶に座ることはできません。
ただし、例外が一つあります。狂言方の大蔵流では、翁に風流がつく場合に限り、狂言方でも鏡の前で葛桶に座れます。あまり演じられない曲ですが、私が唯一記憶しているのは、国立能楽堂の舞台披キのときに、翁付松竹風流があり、善竹幸四郎氏が鏡の前に座られていました。

出を待つシテはここで気持ちを集中し舞台に備えますが、待ち方は人それぞれです。気持ちを鎮めて静かに座っている方、普段と変わらない方、そわそわと落ち着かない方。また、いつもよりずっと快活にお話しされることで、ご自身のテンションを上げられる方がいらっしゃるかと思えば、苛々された様子で近づき難くなる方もいらっしゃいます。また、面(おもて)をいただくタイミングも人によって違います。早めにつけて精神統一される方、ぎりぎりまで面をつけず、周囲をハラハラさせる方。しかし、表向きはどうであれ、気持ちは本舞台に向かっているのです。

開演近くなりますと、お囃子方がシテの側に来られてご挨拶をされます。意外に思われるかも知れませんが、シテが子供で、お囃子方が年配の方の場合でも、お囃子方からシテにご挨拶があります。シテは装束の着崩れを防ぐために、座ったままで目礼するか、頭を少し下げる程度ですが、気持ちを込めて、宜しくお願いしますと挨拶します。

お囃子方はシテにご挨拶をされた後、舞台に出る前に鏡の間でお調べを始めます。お調べはそれぞれの道具の調子を確認する調律です。見所では、お調べが能の始まりの合図のように聞こえているかも知れませんが、その不思議な旋律は表現しがたい雰囲気を漂わせていることも事実です。最初は必ず笛からで、次に、小鼓、大鼓、(ある場合は)太鼓の順に調べます。興味深いお話を聞いたことがあるのですが、上手が揃うと、お調べの各道具の音が決して重ならないのだそうです。注意して耳を傾けるのも面白いかと思います。

一曲が終わると、演者が鏡の間に戻って来ます。先に幕内(まくうち)に入った演者は最後に戻られるお囃子方を正座して待ちます。シテはお相手してくださった方々、ツレ、脇、囃子方後見、地謡の皆様に、お礼のご挨拶を致します。ここで、ようやく舞台の緊張が解けていきます。

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